主な活用方法
「遺言代用信託」は生存中はご本人のために管理・運用してもらい、亡くなった後には配偶者や子供に財産を引き継ぐことができる信託です。
遺言と同様の効果を生ずるので遺言の代わりに使える信託として「遺言」の「代用」となる「信託」です。
遺言と異なる点は、遺言代用信託は契約によりすぐに効力が生じますが、遺言は死亡によってしか効力が生じません。
・賃貸アパートを経営している夫Aさん(78歳)は、将来的に広島在住の長男Cさんに管理を任せようと考えています。
・妻Bさんから見ると最近Aさんに能力の衰えが感じられます。
・しかし夫Aさんはあくまで自分が全て決めないと気がすまないため、妻Bさん長男Cさんは夫Aさんの認知症や死亡などもしもの時の事態に不安を覚えています。
・次男Dさんは大阪で自営業を営んでおり経営状態次第では、将来の遺産で揉める可能性もあります。
・過去にBさんとCさんはAさんに遺言を遺してほしいと言ったことがあるが、Aさんは難色を示し、今のところ何の対策も取れていません。
遺言・任意後見契約をしないまま、対策ができない場合
(1)任意後見契約
(任意後見契約がないときの問題点)
仮にAさんが任意後見契約をしないまま、認知症・寝たきりとなった場合、法定後見人の選任しか手段がなく、司法書士弁護士等の専門家がすべてを管理することとなります。また、法定後見人は選任まで2ヶ月から4ヶ月かかることから、Aさんに必要な契約はその間結べません。
(任意後見契約をした場合)
任意後見契約でAさんの後見人をCさんとしていた場合、Aさんが認知症・寝たきりとなって場合、Cさんが後見人になります。しかし、申立てから選任まである程度時間がかかります。また、同時に後見監督人が家庭裁判所から選任され、Cさんの後見人としての職務を監督することになります。
(2)遺言
(遺言がないときの問題点)
仮にAさんが遺言を残さないまま死亡した場合、誰が何を相続するか、相続人全員で協議書を作成し、署名・実印での押印まで必要となります。Dさんが納得する内容でないと押印してもらえないかもしれませんし、Bさんが認知症になっていた場合、Bさんに法定後見人の選任が必要になります
(遺言をした場合)
遺言でCさんに賃貸アパートは相続させるという遺言が無事できた場合、
Aさんの死後賃貸アパートはCさんが管理するため一安心です
しかし、遺言はAさんの死亡により効果が生ずるので、認知症や寝たきりになった時には対応できません。
また、遺言自体はいつでも書き換えることができ、隠匿・破棄の恐れもあります。
民事信託を利用すると、AさんからCさんへ賃貸アパートの所有権が形だけですが、移転します(実質的所有者は受益権を持つ人)。
Aさんが仮に認知症になった場合でも、Cさんが管理運用処分することができ、アパートの運用に支障が出ません。
またAさんが死亡した場合でも、第二受益者であるCさんがアパートを承継することとなり、遺産分割はその他の財産についてのみ協議をすれば良いこととなります。
Aさんの死亡が前提の話ではなく、認知症となった際の管理する権限をCさんに与えるための契約とすることで、遺言には抵抗のあったAさんの同意も得られやすくなります。
具体的には、Aさんを「委託者 兼 当初受益者」とし、Cさんを「受託者 兼 第二受益者」として賃貸アパートを信託財産とします。
民事信託契約のポイント!
・夫Aさんを「委託者 兼 当初受益者」とする
・長男Cさんを「受託者」「二次受益者」とする。
・賃貸アパートを信託財産として民事信託契約を締結
民事信託を利用する場合のメリット・注意点
- 賃貸アパートの受益権については、第二受益者を指定していれば、相続の対象から外れるため、遺産分割協議ではその他の財産が対象となります。
- 「遺言」に抵抗感がある場合でも、財産管理の「契約」なら提案しやすい場合があります。
- 第二受益者、第三受益者を定めることで代々財産を受け継ぐ人を指定できます。
- 遺留分は十分検討する必要があります。